実験動物のより良い未来を模索する
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- 2026.05.20
- 【コラム更新】完全長マウスゲノムの完成 廣瀬直毅先生(大阪大学 大学院医学系研究科)
- 2026.04.03
- 【開催案内】第73回日本実験動物学会総会(沖縄)
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完全長マウスゲノムの完成
大阪大学 大学院医学系研究科
廣瀬 直毅
生物の体の設計図は、A・T・G・Cの4種類の塩基の配列としてゲノムに刻まれています。ヒトゲノムの塩基配列の大部分は、今から約20年前に初めて解読1–3されました。そして2022年、米国の国立ヒトゲノム研究所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、ワシントン大学を中心とするテロメアtoテロメア・コンソーシアムにより、ついに短腕テロメアから長腕テロメアまでの完全長(telomere-to-telomere、T2T)ゲノムが、すべての常染色体とX染色体について解読されました4。さらに翌年にはY染色体の完全長ゲノムも解読5され、ヒトの完全長ゲノムの参照配列が完成しました。従来のヒトゲノムの参照配列にあった341箇所の塩基配列の未決定領域(「ギャップ」)も解消されたため、疾患の発症に関わるゲノム異常を探索する研究が加速すると期待されています。
ヒトゲノムの解読に並行して、医学・生物学の研究に供されているさまざまな実験動物のゲノムの塩基配列も解読されてきました。代表的な実験動物であるマウス(ハツカネズミ;Mus musculus)については、C57BL/6J系統のゲノムがマウスゲノム・シークエンシング・コンソーシアムによって2002年に初めて解読6されました。それ以降も追加解読が重ねられてきたものの、依然として塩基配列の未決定領域が約7,350万塩基対ほど残っていました。しかし2024年12月に中国のYu博士が率いる研究チームによってC57BL/6系統7、そして2025年11月に英国のKeane博士が率いる研究チームによってC57BL/6J系統およびCAST/EiJ系統の完全長ゲノムの解読結果が、それぞれ報告されました8。本稿では、まずこれらのマウスの完全長ゲノムについて概説したあと、克服された問題と背景にある技術革新にふれ、最後に将来の展望に言及します。
マウスの完全長ゲノムの解読
C57BL/6系統の完全長ゲノムは、半数体(haploid)の雄核発生性の胚性幹細胞(mouse haploid androgenetic embryonic stem cell、mhaESC)を使って解読されました7。この研究では19個の常染色体とX染色体の完全長ゲノムについて報告されましたが、Y染色体の完全長ゲノムの解析結果も2025年6月に公開されました。中国の研究チームによって解析されたこともあり、完全長ゲノムのデータは独自のウェブサイトにて維持・管理されています(データ保存場所)。
C57BL/6J系統とCAST/EiJ系統の完全長ゲノムは、オスのC57BL/6J系統とメスのCAST/EiJ系統を交配させたF1オス個体の胚性幹細胞(ES細胞)を用いて解読されました8。解読されたC57BL/6Jの完全長ゲノム(2.638 Gbp、約26億塩基対)は常染色体のみであり、X・Y染色体は未解読です。一方、解読されたCAST/EiJの完全長ゲノム(2.665 Gbp)は常染色体およびX染色体から構成され、Y染色体が未解読です。ミトコンドリアのゲノムはすでに解読されているため、今回新しく公開されたデータには含まれていません。完全長ゲノムの情報はC57BL/6J系統(GCA_964188535)とCAST/EiJ系統(GCA_964188545)それぞれについて公開されており、一般的なゲノムブラウザUCSC Genome Browserにて閲覧できます(C57BL/6J、CAST/EiJ)。さらにFASTAファイル(.fa)を扱えば、ゲノムの塩基配列をより詳細に検索できます(C57BL/6JとCAST/EiJそれぞれについてダウンロード可能)。また、The Allied Genetics Conferenceでの完全長ゲノムに関する講演の資料も、公開されています(英語資料)。ヒトの完全長ゲノムや他のさまざまな生物のゲノムのデータと同様に、C57BL/6J系統とCAST/EiJ系統の完全長ゲノムのデータは米国の国立生物工学情報センター(NCBI)のデータベースに集積されています。
(※リンク先は入稿した2026年4月末日現在にて有効)
動物の難治性疾病に対する創薬研究 〜動物の免疫療法について〜
北海道大学大学院獣医学研究院
今内 覚
1. はじめに
近年、動物も衛生環境の改善、飼育環境や食事の改善から急速に長寿化が進んでいます。『家庭どうぶつ白書 2023』(https://www.anicom-page.com/hakusho/)によると、2021年度のイヌの平均寿命は14.2歳、ネコの平均寿命は14.7歳とのことです。2008年度の報告時では、イヌの平均寿命は13.2歳、ネコの平均寿命は13.9歳でしたので、イヌでは+1.0歳、ネコでは+0.8歳寿命が伸びたことになります。驚くことに、急速に延びたイヌのこの寿命の期間は、ヒトの約4歳以上に相当するそうです。
一方で、長寿命化に伴い悪性腫瘍(がん)によって命を落とす動物が増えており、既存の治療法(手術、抗がん剤療法、放射線療法)に加えて新たな治療戦略の開発が望まれています。ヒトの医療では、2014年に登場した抗Programmed death 1(PD-1)抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)に代表される免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が次々臨床応用され、悪性黒色腫をはじめとした多くのがん種において著効を示し、現在は免疫療法が第4の治療戦略として確立されています。本免疫療法の特徴の一つは、免疫チェックポイント因子によるがんに対する免疫の抑制機序が同じであれば、異なるがん種であっても同じアプローチ(同じ医薬品)で治療が横断的に可能なところにあります。ヒトの新たながん治療法として道を切り開いた免疫チェックポイント阻害薬開発者の京都大学・本庶 佑先生には、2018年にノーベル生理学・医学賞が授与されています。
我々の研究グループはこれまでに、様々な動物の免疫チェックポイント因子を同定し、がんや慢性感染症などの難治性疾病の発症の原因に免疫チェックポイント因子が関与していることを明らかにしてきました。さらには動物用の免疫チェックポイント阻害薬を開発し、実際の動物の患者に投与することによりその効果を検証してきました。本コラムでは北海道大学大学院獣医学研究院が取り組んできた動物の難治性疾病に対する創薬研究の中から、動物の免疫療法について紹介します。
2. 動物の難治性疾病における宿主免疫回避機序
慢性感染症や腫瘍疾患などの難治性疾病において、種々の免疫チェックポイント因子がその病態進行および維持に関連することが明らかとなり、感染細胞や腫瘍細胞を排除することができない免疫回避機序の一因であることが示されています。このような慢性感染症や腫瘍疾患ではPD-1 に代表される免疫チェックポイント因子が、エフェクター細胞(感染細胞や腫瘍細胞を排除するリンパ球などの免疫細胞)上で発現が上昇し、それぞれのリガンドと結合することでエフェクター細胞の免疫疲弊化を誘発し、細胞増殖能、サイトカイン産生能、細胞傷害機能などが著しく低下することが明らかとなっています(図1)。

一方、この反応は可逆的であることから、抗体を用いてその機能を阻害する免疫学研究や臨床試験研究が活発に行われました。例えば、PD-1のシグナルを抑制する抗Programmed death-ligand 1(PD-L1)抗体や抗PD-1抗体を投与すると、病原体または腫瘍特異的T細胞の増殖能やサイトカイン産生能などのエフェクター機能が、見事に回復することが明らかとなりました。この知見が基盤となり、免疫を抑制する免疫チェックポイント因子の機能を阻害することにより、免疫疲弊に陥ったエフェクター細胞を再活性化するという免疫療法がヒトの悪性黒色腫に対する新規治療として2014年に最初に実用化に至りました(図2)。

現在、抗PD-1抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)に代表される免疫チェックポイント阻害薬が次々登場し、悪性黒色腫をはじめとした多くのがん種において著効を示しています。先述したとおり、本免疫療法の特徴の一つは、免疫チェックポイント因子による免疫抑制機序が同じであれば、異なる病原体や異なるがん種であっても一つの薬(免疫チェックポイント阻害薬)で横断的な治療が可能なところにあります。このことは、まだ多くの予防・治療法や疾病対策が確立されていない獣医療向きとも言えます。我々はこれまでに、腫瘍疾患や慢性感染症などを対象とした創薬研究を行い、それらの解析結果を基盤とした免疫療法による臨床研究を行ってきました。
コラム創薬研究
ちゃんと向き合いたい、
実験動物のこと。
実験動物というとどんなイメージがあるでしょうか。
動物を実験に活用することへの抵抗感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実験動物に携わる関係者の間では実験動物を科学的合理性だけでなく、
動物福祉の観点からも向き合い、飼育環境の改善、実験方法や規制の見直しといった工夫を
日々行っております。
当団体では、そういった日々進化する実験動物に関する情報を
様々なコンテンツを通じて発信しております。
当サイトが、実験動物に関心のある方々の理解を促進し、
よりよい動物と人間の共存関係を実現する一助となれば幸いに存じます。
完全長マウスゲノムの完成
大阪大学 大学院医学系研究科
廣瀬 直毅
生物の体の設計図は、A・T・G・Cの4種類の塩基の配列としてゲノムに刻まれています。ヒトゲノムの塩基配列の大部分は、今から約20年前に初めて解読1–3されました。そして2022年、米国の国立ヒトゲノム研究所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、ワシントン大学を中心とするテロメアtoテロメア・コンソーシアムにより、ついに短腕テロメアから長腕テロメアまでの完全長(telomere-to-telomere、T2T)ゲノムが、すべての常染色体とX染色体について解読されました4。さらに翌年にはY染色体の完全長ゲノムも解読5され、ヒトの完全長ゲノムの参照配列が完成しました。従来のヒトゲノムの参照配列にあった341箇所の塩基配列の未決定領域(「ギャップ」)も解消されたため、疾患の発症に関わるゲノム異常を探索する研究が加速すると期待されています。
ヒトゲノムの解読に並行して、医学・生物学の研究に供されているさまざまな実験動物のゲノムの塩基配列も解読されてきました。代表的な実験動物であるマウス(ハツカネズミ;Mus musculus)については、C57BL/6J系統のゲノムがマウスゲノム・シークエンシング・コンソーシアムによって2002年に初めて解読6されました。それ以降も追加解読が重ねられてきたものの、依然として塩基配列の未決定領域が約7,350万塩基対ほど残っていました。しかし2024年12月に中国のYu博士が率いる研究チームによってC57BL/6系統7、そして2025年11月に英国のKeane博士が率いる研究チームによってC57BL/6J系統およびCAST/EiJ系統の完全長ゲノムの解読結果が、それぞれ報告されました8。本稿では、まずこれらのマウスの完全長ゲノムについて概説したあと、克服された問題と背景にある技術革新にふれ、最後に将来の展望に言及します。
マウスの完全長ゲノムの解読
C57BL/6系統の完全長ゲノムは、半数体(haploid)の雄核発生性の胚性幹細胞(mouse haploid androgenetic embryonic stem cell、mhaESC)を使って解読されました7。この研究では19個の常染色体とX染色体の完全長ゲノムについて報告されましたが、Y染色体の完全長ゲノムの解析結果も2025年6月に公開されました。中国の研究チームによって解析されたこともあり、完全長ゲノムのデータは独自のウェブサイトにて維持・管理されています(データ保存場所)。
C57BL/6J系統とCAST/EiJ系統の完全長ゲノムは、オスのC57BL/6J系統とメスのCAST/EiJ系統を交配させたF1オス個体の胚性幹細胞(ES細胞)を用いて解読されました8。解読されたC57BL/6Jの完全長ゲノム(2.638 Gbp、約26億塩基対)は常染色体のみであり、X・Y染色体は未解読です。一方、解読されたCAST/EiJの完全長ゲノム(2.665 Gbp)は常染色体およびX染色体から構成され、Y染色体が未解読です。ミトコンドリアのゲノムはすでに解読されているため、今回新しく公開されたデータには含まれていません。完全長ゲノムの情報はC57BL/6J系統(GCA_964188535)とCAST/EiJ系統(GCA_964188545)それぞれについて公開されており、一般的なゲノムブラウザUCSC Genome Browserにて閲覧できます(C57BL/6J、CAST/EiJ)。さらにFASTAファイル(.fa)を扱えば、ゲノムの塩基配列をより詳細に検索できます(C57BL/6JとCAST/EiJそれぞれについてダウンロード可能)。また、The Allied Genetics Conferenceでの完全長ゲノムに関する講演の資料も、公開されています(英語資料)。ヒトの完全長ゲノムや他のさまざまな生物のゲノムのデータと同様に、C57BL/6J系統とCAST/EiJ系統の完全長ゲノムのデータは米国の国立生物工学情報センター(NCBI)のデータベースに集積されています。
(※リンク先は入稿した2026年4月末日現在にて有効)
動物の難治性疾病に対する創薬研究 〜動物の免疫療法について〜
北海道大学大学院獣医学研究院
今内 覚
1. はじめに
近年、動物も衛生環境の改善、飼育環境や食事の改善から急速に長寿化が進んでいます。『家庭どうぶつ白書 2023』(https://www.anicom-page.com/hakusho/)によると、2021年度のイヌの平均寿命は14.2歳、ネコの平均寿命は14.7歳とのことです。2008年度の報告時では、イヌの平均寿命は13.2歳、ネコの平均寿命は13.9歳でしたので、イヌでは+1.0歳、ネコでは+0.8歳寿命が伸びたことになります。驚くことに、急速に延びたイヌのこの寿命の期間は、ヒトの約4歳以上に相当するそうです。
一方で、長寿命化に伴い悪性腫瘍(がん)によって命を落とす動物が増えており、既存の治療法(手術、抗がん剤療法、放射線療法)に加えて新たな治療戦略の開発が望まれています。ヒトの医療では、2014年に登場した抗Programmed death 1(PD-1)抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)に代表される免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が次々臨床応用され、悪性黒色腫をはじめとした多くのがん種において著効を示し、現在は免疫療法が第4の治療戦略として確立されています。本免疫療法の特徴の一つは、免疫チェックポイント因子によるがんに対する免疫の抑制機序が同じであれば、異なるがん種であっても同じアプローチ(同じ医薬品)で治療が横断的に可能なところにあります。ヒトの新たながん治療法として道を切り開いた免疫チェックポイント阻害薬開発者の京都大学・本庶 佑先生には、2018年にノーベル生理学・医学賞が授与されています。
我々の研究グループはこれまでに、様々な動物の免疫チェックポイント因子を同定し、がんや慢性感染症などの難治性疾病の発症の原因に免疫チェックポイント因子が関与していることを明らかにしてきました。さらには動物用の免疫チェックポイント阻害薬を開発し、実際の動物の患者に投与することによりその効果を検証してきました。本コラムでは北海道大学大学院獣医学研究院が取り組んできた動物の難治性疾病に対する創薬研究の中から、動物の免疫療法について紹介します。
2. 動物の難治性疾病における宿主免疫回避機序
慢性感染症や腫瘍疾患などの難治性疾病において、種々の免疫チェックポイント因子がその病態進行および維持に関連することが明らかとなり、感染細胞や腫瘍細胞を排除することができない免疫回避機序の一因であることが示されています。このような慢性感染症や腫瘍疾患ではPD-1 に代表される免疫チェックポイント因子が、エフェクター細胞(感染細胞や腫瘍細胞を排除するリンパ球などの免疫細胞)上で発現が上昇し、それぞれのリガンドと結合することでエフェクター細胞の免疫疲弊化を誘発し、細胞増殖能、サイトカイン産生能、細胞傷害機能などが著しく低下することが明らかとなっています(図1)。

一方、この反応は可逆的であることから、抗体を用いてその機能を阻害する免疫学研究や臨床試験研究が活発に行われました。例えば、PD-1のシグナルを抑制する抗Programmed death-ligand 1(PD-L1)抗体や抗PD-1抗体を投与すると、病原体または腫瘍特異的T細胞の増殖能やサイトカイン産生能などのエフェクター機能が、見事に回復することが明らかとなりました。この知見が基盤となり、免疫を抑制する免疫チェックポイント因子の機能を阻害することにより、免疫疲弊に陥ったエフェクター細胞を再活性化するという免疫療法がヒトの悪性黒色腫に対する新規治療として2014年に最初に実用化に至りました(図2)。

現在、抗PD-1抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)に代表される免疫チェックポイント阻害薬が次々登場し、悪性黒色腫をはじめとした多くのがん種において著効を示しています。先述したとおり、本免疫療法の特徴の一つは、免疫チェックポイント因子による免疫抑制機序が同じであれば、異なる病原体や異なるがん種であっても一つの薬(免疫チェックポイント阻害薬)で横断的な治療が可能なところにあります。このことは、まだ多くの予防・治療法や疾病対策が確立されていない獣医療向きとも言えます。我々はこれまでに、腫瘍疾患や慢性感染症などを対象とした創薬研究を行い、それらの解析結果を基盤とした免疫療法による臨床研究を行ってきました。
コラム創薬研究

